休憩中 喫煙所にて煙をくゆらす
ふと視界の片隅に何かが動いた
不思議に思い その何かを視界の中心に据えた
視界の片隅の何か
よく見るとそれは クワガタだった
仰向けにひっくり返り 足をジタバタさせている
メスだ
しばらくその様子を見ていた
彼女は起き上がろうと必死だ
やがて喫煙所には 仕事合間の束の間の喜びを求める人々で溢れる
人々は足下の叫びなんか聞こえない
彼女はまだもがいている
また一歩 彼女のすぐ側に巨大な足が降りてくる
そしてまた一歩
俺は彼女に近づき そっと靴の裏を近づける
靴の裏側に小さな感触
彼女の伸ばした足が届いた感触
それを確認した俺は ゆっくり足首を振った
カサっ
小さな音と共に 彼女はその六本の足を冷たいコンクリートに降ろした
指に挟まった煙草をくわえ 最後のひと吸い
空に向かって煙を昇らす
少しいつもと違う味 多分 彼女からのプレゼント
職場に戻るドアに手をかけた時 ふいにまた彼女を見た
彼女はこちらを見ていた
御礼のつもりか
勝手に俺はそう思う事にした










